『アイーダ』 続・セリフについて、あれこれ。。。
前回の終わりに取り上げた、アムネリスの寝室での、
『お父様のお加減はいかがでございますか』
というアイーダの台詞について。
古代エジプト(に限らないけど)は、とても階級が明確な社会だ。
『アイーダ』にも、それはよく描かれていて、
「今は卑しい奴隷の身」といった表現がある。
これは、アムネリスとアイーダが初めて会う場面にもあって、
アイーダが、王女様からの問い掛けに、直接返答し、場を凍らせていた。
そんな社会の状況(常識)の中・・・・
では、さて、異国の、奴隷の身の侍女が、王女に向かって話す時に、
「お父様」という言葉を使うだろうか?
ここは、普通、常識的には、
「ファラオのお加減」であったり、「王様のご様子」と言うものだろう。
百歩譲っても「お父上のお加減はいかがでございますか」だ。
(一幕最後の場面には、庶民からではあるが、「お父君」という言葉がある)
けれど、アイーダは、
アムネリスの父を「地位の呼称」では無く「お父様」と呼び、
アムネリスは、それを少しも気に掛けず、普通に会話を続ける。
寝室のこの会話から、
「アイーダは、アムネリスを権力者の娘ではなく、
家族を愛して心配する、自分と同じ人間として観ている」
という事と、
「アムネリスにとって、アイーダは、不思議なほどに私を理解し、
支えてくれる、心許せる女性、友人である、と感じている」
という事が伝わってくる。
実際、この二人は、その世界を見渡しても、
互いに分かり合えるほとんど唯一の存在であり、
もし、戦時下でなければ、ステキな友好関係を築いたとも想像できる。
ここでのこの交流が、その後『迷いつつ』の入り口となるし、
やがて二幕のクライマックスでの台詞へと繋がってゆく。
さて、この「アムネリスの寝室場面」そのものが、
『アイーダ』が普通のミュージカルとは違う事を示していると思う。
『儚い喜び』と『ローブのダンス』という大きな曲に挟まれたこの場面は、
本来、形式上は、「息抜きの場面」として存在する。
(アンサンブルの着換えの時間、、、とも言えるけど(笑))
「息抜き」なので、実際、笑える台詞も用意されていて、
日本ではあまり笑いが起きないものの、
ブロードウェイでは大きな笑いが起きる場面らしい。
この、形の上では「息抜き」である場面が、
実は、『アイーダ』の物語を最も大きく動かしている事が、とても面白い。
そもそも、主役の3人が直に向き合う場面は、ここしか無いのだ。
(裁判の場面もあるけどね。。。そこもまた、歌では無い事に注目!)
アムネリスの寝室で。。。
ラダメスは、自分の決意をアイーダに伝える。
(もし歌なら『はやく王様になりたい(LK)/ラダメス・バージョン』)
アイーダは、そんなラダメスに触れて、自分の道を模索する。
(もし歌なら『私じゃない(ウイキッド)/アイーダ・バージョン』)
そして、アムネリスは、ラダメスの心が見えなくなり、
やがて「知らない事が、たくさんあるのね」と、気づく事になる。
(もし歌なら『オン・マイ・オウン(レミゼ)/アムネリス・バージョン』)
こうして、それぞれが社会的な立場を強く自覚したものの、
それでも、
ラダメスとアイーダの関係は止まらずに深まってゆく。。。その起点。
こうした、とても重要な場面が(ほとんど)台詞で綴られる点を観ても、
『アイーダ』が俳優に求める「役者としての資質」が深い事が解る。
(アムとアイーダの小さなデュエット曲も、可愛いんだけどね)
ところで、、、以前の『アイーダ』のプログラムをご存じだろうか?
いつからか(前回の東京公演かな)その表紙がブラウン系になり、
今回の東京公演では、印象的なパピルスの影絵がモチーフだけど、
以前のプログラムは、美しく煌めく青だった。
それは、たぶん、このアムネリスの寝室の壁紙がモチーフだったのだろう。
舞台に一度だけの、しかも地味なこの場面の背景が、表紙になっていた。
それは、この場面がいかに重要であるのかを表現していたのかもしれない。
さあ、今週も、我らが福井ラダメスが続投するようだ。。。
あと13回、、、平日マチネが多いけど(笑)イベントもあるし、
どんな台詞の響きを聴かせてくれるのか、とてもとても楽しみだ。
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コメント
ぽんさん、、、
「と、言うわけで」というのは、
「大人の事情で」と云った意味でしょうか・・・けっして、ネタが無いとか、
「もう、支援する事もないだろう」
なんて事では無いと思います。。。。たぶん。
と、いうわけで、、、今夜は「オフステ」の記事です
投稿: みかん星人 | 2012年8月 7日 (火) 午前 12時18分
「と言うわけで」、、、とは、どういうわけで?笑。
シリーズ化にならないのは残念ですが、
バックステージツアーの記事、ありがとうございます!
嬉しいです~
【アイーダ・クイズ】というのもあったのですね

さかのぼって、読ませて頂きます
投稿: ぽん | 2012年8月 6日 (月) 午後 11時29分
ぽんさん、、、、
と、言うわけで、シリーズ化は無理ですので(笑) バックステージツアーの記事を、とりあえず、上げてみました。
あと、今ではちょっと間違いがあるのですが、過去に【アイーダ・クイズ】というのを書いてます。で、それはちょっと「あれこれ」かと思います。
今後とも、疑問など、一緒に考えてみたいと思いますので、どんなに長くても、短くても、コメントを楽しみにしております
投稿: みかん星人 | 2012年8月 3日 (金) 午前 10時33分
みかん星人様、
昨夜は、エジプトに行っていたので、
お礼が遅くなってしまいましたが、、、
リクエストに応えて下さり、
本当にありがとうございました!!!!!!!!
自分では、気が付けないけど、
読んで、「そうだったのかー!」と、目からうろこ
みかん星人さんの解説(分析?)のおかげで、


昨日の観劇は、より心に深く響きました
調子に乗って、、、もう一つお願いしてもいいですか?笑。
ぜひ「アイーダのあれこれ」のシリーズ化をして頂けたら嬉しいです
長文失礼致しました
投稿: ぽん | 2012年8月 1日 (水) 午後 11時20分