『戦場でワルツを』
今年の、第81回アカデミー賞で、
外国語映画賞の最有力候補だった『戦場でワルツを』を観た。
アカデミーの最優秀賞を受賞したのは、ご存知、『おくりびと』だったけど、
この『戦場でワルツを』がなぜに破れたのか、にも興味があったし、
なにより、あの映像のインパクトを映画館で体験したかった。
ゴールデングローブ賞で最優秀を取った『戦場でワルツを』が、
アカデミーではダメだった、最も簡単で明瞭な理由は、
この映画が、
イスラエルの人々にとって「面白くない過去」を描いているからだろう。
しかも、非道な事をした、というだけでなく、
敵前逃亡などといった不名誉な部分までをも描いているからだ。
だけど、そういう「外野」な部分は別にしても、
この『戦場でワルツを』には、ユーモアが、全く無い。
『おくりびと』が、
本来のテーマである、納棺夫が経験した現実を執拗に描くよりも、
そこに「人間らしいユーモア」を多く取りこむ事で成功したのに比べて、
『戦場でワルツを』は、
あまりにも赤裸々に「人間の生きるための狡猾さ」と正直に向き合っている。
更にいえば、ほとんど実体験で語られたこの映画は、
観終わってみると分かるのだが、
他の映画と比べられるべき作品ではないと感じる。
いわば、この表現方法も含めて、孤高の存在だ。
この、独特の質感をもったアニメは、
いったん実写で撮影されたビデオをもとにして、
けれど、それを加工してアニメにしたのではなく、
ビデオをみながら、アニメーターが描きあげたものだそうだ。
まるで、ネガ・カラーフィルムのベースのオレンジ色を思わせる色づかいや、
適度に誇張された人物の描き方など、みていて、とても面白い。
が、実際にはとても重い内容の物語、
というか、「とある人物にとっての、とある現実」が持つ厳しさがあって、
これは、実写では表現不可能な映像体験だと思う。
お薦めはしないが、まさに必見の1本。
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