『コースト・オブ・ユートピア ユートピアの岸へ』 @ シアターコクーン
『ユートピアの岸へ』というのは、サブタイトルなのかな?
『The Coast of Utopia』の訳のようだけれど、
最後に「へ」が付いているところが、なんとも微妙で、絶妙。
3部構成の舞台で、9時間にも及ぶ大作。
最初にチラシを見た時には、見間違いか誤植か冗談かと思った。
それでも2007年のトニー賞を大量獲得しているから、
よほど内容が面白いのだろう、という予感を抱いて観に行った。
ちなみに、第1部は『VOYAGE:船出』で実質170分。
第2部は『SHIPWRECK:難破』で実質160分。
第3部は『SALVAGE:漂着』で実質170分。
合計500分、8時間20分というお芝居。
この長い舞台、結局一番努力したのは、通しで観劇した観客だと思う(笑)
詳しい内容は、いつものように公式ページで。
始まる前は「9時間の苦行か?」という気持ちもあったが、
いざ始まってみると、これがなかなか、いや、かなり、面白い。
まず、舞台の設置が面白い。
「シアターコクーン」のこういった使い方は、以前にも観た事があるが、
普段は舞台である「向こう正面」にも客席が設えられていて、
舞台は劇場の最も低い部分、ふだん緞帳のある辺りに細長く設置されて、
まるで「ファッションショーのランウェイ」みたい。
普通の客席からみた下手側には壁があり、ドアが設置されていて、
舞台に沿ってレースのカーテンのように紗幕が用意されている。
そうだ、舞台が始まる前も、面白かった。
劇場に入ると、この細長い舞台の上に会議用の机が並べられいて、
役者達がそのテーブルを囲んで、普段着で、談笑していた。
(おまけに、客席には演出がいたりして、、、妙に砕けた雰囲気)
やがて開幕ベルと共に紗幕が走り、
透けて見える舞台の上に、たくさんのスタッフの手で装置が運ばれる。
会議用のテーブルは集められ、クロスが掛けられて食卓となり、
食器と共に、本物のロウソクが灯る燭台が置かれる。
役者も数人は舞台の上でドレスに着替えていたりして、
先ほどまでのリラックスした空気が意識的に取り払われていった。
この後も、場面転換はこうして紗幕の中で観客に見える状態で行われる。
苦行に思えていた長い舞台に、全く飽きる事が無かった理由の一つが、
この場面転換の面白さにあったと思う。
また、舞台の上には移動するフロートがあり、
第1部では1台、第2部では2台になるのだけれど、これも実に効果的。
特に第2部には船上のシーンがあるのだけど、
ここで左右に配されたフロートの様子が船上そのものを感じさせると共に、
左右に別れて討論する二人の隔たりまでをも見事に描き出していた。
こうした見事な演出の魔法がかけらた、見飽きる事のない舞台の上では、
長い台詞と共に俳優の身体に染み込んだ「役」が、見事に機能していた。
俳優が「役」に成ると云うのは、相当な努力がいるものだと思う。
時折みかける、というか、感じてしまうけれど、
俳優が集中力を無くして役から逸れていくと、収拾がつかなくなるものだ。
が、こんなに長丁場のこの作品では、そんな失態が起きるどころか、
俳優たち、特に主演の6人の男優たちの芝居の精度が恐ろしく高かった。
白熱した議論の言葉一つ一つに、まさに「思い」が篭っていると感じた。
これは、しかし、よく考えてみると、自然なのかもしれない。
なにしろ、全部で9時間にも渡る芝居なのだから、
その世界に浸っている時間が、通常の芝居の3倍以上になるわけだ。
まさに、役の人生そのものを体に入れての芝居だったのだろう。
さて、9時間の、というよりも、半日の観劇を振り返って観て思うのだけれど、
こういう、丁寧な物語って、意外と楽しいのかもしれない。
この作品の「第一部・第一幕」なんて、基本的には物語前提だ。
例えるなら、『桃太郎』のお爺さんとお婆さんの新婚の日々みたいな部分。
その部分は、制作と俳優と観客の間で、
「勝手に想像しましょう」という暗黙の了解があって、物語から外される。
けれど、ちゃんと描くと、なかなか面白いし、
そこで多くの伏線が張れたりして、演劇的な面白さが深まる。
もしも、このように上手く描いてくれるのなら、
それこそ『アイーダ』の前段、
ヌビアがエジプトに襲撃される場面なんかも観てみたい(笑)
メレブの父・ヘヌが、アモナズロと談笑している場面とか、
アイーダが舟遊びをしているところとか、、、きっと、面白いだろう。
普段見ている「演劇」は、
そもそも、切り出されて、デフォルメされた世界なのだけれど、
今回の観劇で、それが如何に唐突に切り取られた時間なのかを思い知った。
やはり、観劇に限らないけれど、想像力こそ堪能への最大の味方だ。
ともかく、疲れたぜ。。。外はもう、すっかり、深夜だった。
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コメント
おとみさん、コメントありがとう。
やはり土曜日ですよね、、、通しで観るなら(笑)
月曜日の朝、大変でしたよ(爆)
阿部さん、もの凄く恰好よかったぁ。
3部では、クラークゲーブルかと思いました。
勝村さんには、卑怯に、笑わされ続けましたわ。
私が必ず落ちるのは、、、、はい、『鹿鳴館』です。
あ、、あと、大きな声では言えませんが、、、『キャッツ』も
投稿: みかん星人 | 2009年10月 1日 (木) 午後 11時50分
>みかん星人さま
26日拝見しました。
今回はこれを目当ての遠征でした。長さも感じなかったし落ちなかったです。場面転換が良かったのでしょうか。阿部さん、尊敬以外の言葉ありません。
ちなみに必ず落ちるのは歌舞伎の松羽目です。
投稿: とみ(風知草) | 2009年10月 1日 (木) 午後 09時29分