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2009年4月13日 (月)

『グラン・トリノ』

4月25日から公開される『グラン・トリノ』を観てきた。
相変わらず、映画に関する情報はリンク先の公式ページにて。。。

冒頭に出る「WB」のマークが白黒なのが、渋い。
で、その渋みが映画全体を包むのかと思っていると、そうでも無い。
イーストウッドが、彼自ら言うところの「俳優として最後の役」として選んだのは、
朝鮮戦争従軍体験の影を引き摺ったやたら頑固な爺さんで、
これがなかなかユーモラスなのだ。

タイトルが意味するのは、フォード社のスペシャリティーカーで、
主人公・ウォルトコワルスキーが大切にしている車のこと。
 (「コワルスキー」はポーランド系のファミリーネームらしい)
つまり、コワルスキーは、
「朝鮮戦争」と「フォード」というアメリカの二つの側面をもっているわけだ。
そして、『ミリオンダラー・ベイビー』でも重要な鍵だったカトリックという側面も。

相変わらず、イーストウッド監督の「物語り」は上手いと思う。
観客の感情や意識に無理を強いず、
ひたすら丁寧にカットを重ねて、物語を綴ってゆく。
一つ一つのシーンが、過不足無く情報をくれるので、
余計な事を考えずに観ていれば、自ずと、終着点に連れて行ってくれる。

それにしても。。。。以下、すごく踏み込みます。

結末は、「そうなるだろう」としか思えないのに、
大変に強烈で、呼吸を忘れてしまうほどだった。

この映画は、みかん星人が好きな二つの作品の匂いを持っていて、
「結末はそうなるだろう」という予感は、この作品たちから感じたものだ。

ひとつは、アメリカのハードボイルド小説の一つの傑作『初秋』。
これは、探偵が、少年を「男」に育て上げるという毛色の変った小説で、
しかしながら、何度読み返しても痺れるような感動が残る一冊。
映画『グラン・トリノ』の後半は、まさにこの『初秋』の雰囲気がある。

もう一つは、黒澤明監督の『生きる』だ。
イーストウッド監督は大の黒澤映画ファンなので、まさにそのオマージュだろう。
頑固なコワルスキーに変化が訪れるのが「誕生日」なのが、面白い。
 (さすがに女学生の合唱は無いけれど・・・)

この映画で最も素晴らしいのは、カメラの画角だと思う。
人物のクロースアップの場面が少なく、
また、たまに使われるクロースアップにはちゃんと意味が明確なのだ。
ハンディー・カメラの下品な揺れも無いし、ともかく画が美しい。
 (ただし、今日の試写会場<ヤクルトホールのスクリーンは歪んでいてダメだ(笑))

この映画の、ちょっと変った「見所」は、カトリックの司祭に関してだろう。
27歳の、神学校を出たての若い司祭が、頑固なコワルスキーと執拗に交流する。
まるで、コワルスキーの中の「とある部分」の分身の様にも感じ取れる。
大変に不思議で、濃密な印象を残す司祭だ。

ともあれ、心に深く残る、後からジワジワと効いて来る、
面白くて、そして、おそろしく重い映画だ。

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