『幽霊狩人カーナッキの事件簿』 by ウィリアム ホープ ホジスン
- W.H.ホジスン
- 東京創元社
- 1008円
今回このプロジェクトで手にしたのは、20世紀初頭のイギリス文学。
主人公「トマス カーナッキ」が友人4人を招いて、
「心霊現象を探求した経験談」を(一方的に)語る小説だ。
「幽霊狩人・ゴーストハンター」というと、
小野不由美氏の『悪霊シリーズ』を連想してしまうのだが、
著者は1887年生まれのW.H.ホジスンというイギリスの小説家で、
この人、なんと、第一次世界大戦で戦死しているのだそうだ。
みかん星人も、ご他聞に漏れず、子どもの頃には「オカルト」関心があった。
当時「オカルト」というと「中岡俊哉」という人が有名で、
中学の文化祭でお化け屋敷の企画が上がった時に、
中岡氏の心霊写真を大きく引き伸ばして展示したものだ。
現像のために借りた理科室の暗室の赤い照明の中で、
印画紙に浮かび上がる心霊写真に背筋が寒くなったのを覚えている。
(調べたところ、中岡氏は2001年に亡くなられていた、、、合掌)
初出が1910年という作品をはじめとして10篇の短編が収録されている。
面白い事に、総てが「オカルト的な結末」では無いのだ。
「不思議な出来事だった」で終わるものもあれば、
「何の事は無い、枯れ尾花だつたよ」という結末もある。
そのバランス具合がなかなか上手く、意外と楽しませてもらえる。
(それは、もちろん、本書の編集者の力だけれど・・・)
「オカルト」と思って読んでいると、しかし、まるでSF小説のようにも思えたりする。
不思議な装置(なんと真空管!<鉄腕アトムみたい)で結界を張ってみたり、
『シグザンド写本』だの『サアアマアア典儀』といった謎の古文書や、
【サイイティイイ現象】とか【アイイリイイ現象】という事をまことしやかに語る。
それはまるで【ミノフスキー粒子】が本当に存在していると信じてしまうように、
見事な世界観を構築して、可笑しな程の科学的姿勢に感じてしまう。
というよりも、20世紀の初頭においては、
「オカルト」と「サイエンス」は似たり寄ったりの存在だったのだろう。
1910年というと、ヴィクトリア女王を引き継いだエドワード七世が逝去した頃。
「自動車」が庶民の手が届く可能性のある夢となり始め、
そして1912年にはタイタニックが就航する、丁度その頃の価値観なのだ。
当時の雰囲気が充満していて、その部分では大変に興味深くもある。
語り口が、また、独特で、冒頭に書いたように、
「カーナッキが、自宅に招いた4人の友人に語る」
というスタイルとなっていて、それを聞き手の一人が本に認めたという体裁。
つまるところ、ホームズの言動をワトソンが書き記したのに似ている。
が、総てはカーナッキの「物語り」なので、
「諸君、その時の僕の恐怖を理解してくるだろうか?」
といった感じで、どこと無く稲川淳二氏を連想してしまったりもする。
さて、読後、ふと考えたのだけれど、、、
ホラーというか、オカルト系にはちゃんとしたファンというのがいると思うし、
そういう人々にとって「ホジスンが新訳・新刊なった」というのは、朗報なのかな?
なんて思うけれど、どれほどの需要があるのか、不思議な気がした。
尤も、ホームズの小説だって、今の時代、どれほど読まれるのかは知らないが、
似たような存在なのかもしれない。
ただ、なんとなく、読者層を想定できない、と、久しぶりに感じた読書となった。
【書評リンク】
まろんぐらっせ さん
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びんご さん
poppen さん
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コメント
平田敦さん、コメントありがとう。
久しぶりですねー。
すっかり、ますます遅読になってしまいました。
SFは、いま、すっかりファンが減ったそうですね。
うっかり表紙や帯に「SF」と書くと売れなくなってしまうほどだと聞きます。
むしろ、どこかに曖昧さを残したままで決着してしまう感のあるホラーの方が、
いまは、受けるのかもしれないですねー。
「コレクターアイテム」という感覚は、とても的を射ていますね。
投稿: みかん星人 | 2009年5月 6日 (水) 午後 11時44分
似たような書籍の書評をしました。
http://blogs.yahoo.co.jp/mummykinoi/60058353.html
で、思うのですが、このジャンルの書籍の読者は意外と広いと思いますよ。ホラー好き:SF好き=9:1ぐらいでは(根拠無し)?
古さがまた魅力だったり。
温故知新感を味わったり。
上掲の書籍、私には新鮮でした。
ホラー好きにはコレクターアイテムなのかも。
投稿: 平田敦 | 2009年5月 6日 (水) 午前 05時04分