『ベンジャミン・バトン -数奇な人生-』
2時間47分(実質2時間35分)のこの映画、
長い映画が苦手なみかん星人は、しかし、少しも飽きることなく観る事ができた。
ひとつには、
「アンゼたかし」さん(初めてお目に掛かったかな?)の字幕が良かったこと。
「どこがどう良いのか」は説明できないのだけれど、
ともかく、物語が素直に理解できたのは、この字幕のお陰だと思う。
そして、もちろん、たまには日本に来てほしい(笑)「ブラッド ピット」くんが、
(この映画のプロモーションで来日するらしいけど)
どんどん若くなってゆく、その様子に見とれていた。
普通、映画の中に限らず、人は加齢によって肉体が衰える。
皺が増えて、シミが増えて、臭くなって、鈍くなってゆく。
が、この映画でブラッドピットくんが演じる「ベンジャミン」は、どんどん若返る。
だから、最初「ブラピも、こんな感じで、加齢するのか」と思っていると、
次第に見慣れたブラピになり、やがて美しいブラピになり、
『テルマ&ルイーズ』の頃の懐かしいブラピになってゆく。。。
まさに、コンピュータグラフィックスの最高に楽しい使い方の見本のよう。
映画は1918年、第一世界大戦の終戦から始まり、
たぶんに「カトリーナ」が来襲した2005年までの大河ドラマで、
時代背景の使い方、その時代の車、音楽の使い方も、とても楽しい。
物語自体、これが「逆加齢する男の物語」でなくても、
充分に楽しめる「とある男の生涯の物語」になっていた。
脚本を書いたのは「エリック ロス」で、
『フォレスト・ガンプ』でオスカーを手にした脚本家。
あの映画と同じ「寓話」という感覚は、まさに彼独特なのかもしれない。
ヒロインは「ケイト ブランシェット」で、
『エリザベス』とか『ロード・オブ・ザ・リング』とか、ともかく無表情な感じだけど、
この映画では、その無表情が微笑む瞬間の美しさがたまらない。
また、ブラピだけでなく、もちん普通の方向で加齢する彼女の様子も、
「あー、本当に美しく時間を積み上げられるものなのだなぁ」と感嘆してしまう。
どっちかというと、彼女の変化の方が凄いかもしれない(笑)
さて、ほとんど【SF映画】のようなこの作品。
しかしながら、
「なぜ、若返ってゆく男を主人公に据えたのか?」
「若返る様子を通じて、本当に描きたかった事、伝えたかった事は、何か?」
に関しては、これ、かなり難しい部分かもしれない。
そもそも、上にも書いたけれど、物語がよく出来ていて、
ベンジャミンが普通の男でも充分楽しめる可能性がある。
彼の「若返り」がもたらす「何か」は、
たぶん、まさに観る者一人一人の価値観によるんだろうなぁ。
ともかく、長いけれど、もの凄くお薦めできる映画です。
さて、続きは、みかん星人が感じた、
「この映画で描かれた『若返り』の意味」です。
ただし、映画を観たのを前提に書いていますので、観た人限定です。
やはり、どう考えても、この映画にとって、
「ベンジャミンが若返る」という事自体は、映画のレトリックに過ぎ無いと思う。
確かに、80歳の様子で生まれた彼だから、父親に捨てられてしまうし、
そして老人ホームで育ってゆく。
たけど、それは「みため」の問題であり、ベンジャミンの父の問題。
やがてベンジャミンは老人ホームで育つけれど、
みため老人でありながらも中身は幼児である事がもたらす数奇なドラマは、
「デイジー」との出会いの部分にしかない。
とはいえ、それは、
「デイジーは、ベンジャミンのみためでは無く、中身を好きになった」
という事が、むしろ、積極的に伝わってくること。
精神が成人したベンジャミンは、みためはおよそ60歳。
好奇心旺盛な「老人」が周囲を巻き込む面白さは、確かにある。
ベンジャミンの初体験などはその典型だろうし、確かに面白い。
だけど、それだけ、だ。
間違いなく「数奇な運命」だけれど、だけど、それが映画のテーマではない。
この映画のテーマは、なんだろうか?
私は、この映画のテーマは「つまるところ、どの人生も数奇だ」という事だと思う。
80歳の肉体で生まれて、80歳の精神で死んでゆくことと、
0歳の肉体で生まれて、やがて認知症に抱かれて0歳の精神で死ぬという、
ある意味でとても幸せな普通の人生は、実はそれほど変らないのだ。
この映画は、だからけっして「ベンジャミンの人生の数奇さ」を楽しむものではなく、
肉体と精神のバランスを意識しながらとある男の人生を俯瞰する事で、
「では、私は?家族は?愛する人々は?」へと思いを馳せる映画なのだと思う。
「若返る」という部分に捕らわれていると、少し、もの足りない。
この映画は、表層に捕らわれて居ると、多くの事を見逃してしまうかもしれないね。
彼の名前、ベンジャミンではなくて、サミュエルだったら凄かったかも(笑)
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コメント
やっと観てまいりました。「ベンジャミン・バトン」。
愛した人がどんどん若返っていく、どんどん美しくなっていく、というのは、女性であるデイジーにとってはかなりきつい話だろうと思います。たとえ、中身に恋していたとしても。
少年めいたベンジャミンが来たときは、来たかった彼の気持ちもわかるけれど、つらかったですわ。これが逆なら、こうまで思わなかったのでしょうねぇ。
投稿: きし | 2009年2月23日 (月) 午後 07時59分
おとみさん、コメントありがとう。
「ある日どこかで」!
をを、、、私が最も愛する映画ですよ!!
確かに、一瞬の煌きが永遠となるという辺り、通じますね!
そう、
特殊な設定が際立たせるのは、
普通の日々の素晴らしさなのですね。
投稿: みかん星人 | 2009年2月13日 (金) 午後 11時46分
>☆みかん星人さま
トラバありがとうございました。
寓話のファンタジー仕立ては、まさに人生の大切さを際立たせるための修辞ですね。ベンジャミンの人生で出会った人々が皆輝いておられました。
ただ、女性はちょっと神経質に若さと老いを意識し過ぎてしまいます。
「ある日どこかで」という、老夫人に恋した若者がタイムトラベルするファンタジー、肖像画の少女が凄い早さで大人になって海難事故に遭う映画とか思い出しました。
投稿: とみ(風知草) | 2009年2月12日 (木) 午後 09時00分
takaさん、コメントありがとう。
そう、、、この映画の宣伝に流れる、
「若返る人生は、かけがえのない人との別れの連続」
といったキャッチは、この映画を少しも理解してないコピーだと思うのです。
この映画で若返るブラピは、あくまでも映画としての「面白み」であって、
それはむしろ、「出会いと別れ」の普遍性を際立たせているだけなんですよね。
若返ろうが、普通に老化しようが、弱々しく生まれて、弱々しく消えてゆくのですから。
投稿: みかん星人 | 2009年2月 9日 (月) 午後 11時55分
TBありがとうございます。
ラストで大泣きだったんですけど・・(^^ゞ
身近な人の死を思い出せば・・自然じゃない!
でも、オムツして死ぬんだって思いが悲しくも現実的でした。
それにしても・・ブラピがリアルよりも若返っている!(笑)
投稿: taka | 2009年2月 9日 (月) 午前 12時41分
ハイタカさん、コメントありがとう。
『小さな王様』が解らないのですが。。。。
これは、あとから効いてくる映画です。
ちゃんと「続き」を書きたいのですが、、、言葉にならない。
そっか、、、また、アカデミー賞の季節ですね。
『おくりびと』の英題が『Departure』という、
「門出」とか「新展開」というニュアンスもある言葉なのに驚きました。
もっとも「離脱」という意味もあるそうなので、まあ、上手いかな?と(笑)
投稿: みかん星人 | 2009年1月24日 (土) 午後 07時08分
美しいブラピを観にいくだけでも価値があるかなといわれているこの映画
小さな王様とコンセプトは似ているなとおもいつつ・・・すごいところに目をつけて描いてますね~
アカデミー賞は今年も見れないのでみかん星人様の中継を楽しみにしてます(笑)
投稿: ハイタカ | 2009年1月24日 (土) 午後 12時23分