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2008年9月10日 (水)

『トロイ戦争は起こらないだろう』 @ 自由劇場 by 劇団四季

何度も書いているけれど、みかん星人は「自由劇場」がとっても好き。
アプローチからして雰囲気があるし、狭いながらもホワイエも素敵だ。
特に、2階の下手側にあるテラスのような場所は、ユニークでもある。

ともかく、この劇場にくると、演劇に包まれる。

そこで、いま、短い期間(9/2~9/20 18ステージ)ながらも、
「劇団四季オールスターキャスト」に近い感じで上演されているのが、
劇団存在理由たる「ジャン ジロドゥ」作『トロイ戦争は起こらないだろう』。
それに「舞台セミナー」というイベントとA席という条件で(笑)行って来た。
 (自由劇場では、正直、A席や2階席の方が居心地が良い)

物語は、予感と違うもので、とても哲学的だった。
後から考えれば、ジロドゥなのだから『間奏曲』的だと解るのだけれど、
事前に考えていたのは、もっと政治的ニュアンスの強い芝居だった。
その、予感していた政治的なもの、ある意味もっとも現実を見ているのが、
阿久津陽一郎くんが演じるエクトール
阿久津くんのストレートプレイは『アンチゴーヌ』以来だな。
長い台詞をたくさん覚えて、すごいすごい。

なにしろ、このエクトールという役どころが面白い。
軍人にて勇者なのだけれど、戦争から戻ったばかりで、
「もう戦争なんかしたくない」と、とってもハト派。
もちろん、トロイの人々も戦争が終ってホッとしているのだけれど、
そんなところに、エクトールの弟が面倒を持ち込む。
これが『パリスの審判』で有名な、田邉くんが演じるパリス
その問題は、あろう事か、ギリシャの人妻にして、
天下の美女・エレーヌを略奪して来たというから、さあ大変。

この天下にくらぶべくも無い美女・エレーヌが、凄い。
演じる野村さんの引出を全開にしたような「演技のオンパレード」。
「オンディーヌ」はいるし、もちろん「アンチゴーヌ」もいる。
時々顔を出すのは「オフィーリア」で、油断していると「シラバブ」まで居る。

でまあ、その変幻自在の美女・エレーヌと、
トロイの「政治」に関わり、そして「戦争に否定的ではない人々」や、
エレーヌを取り戻しに来たギリシャとの交渉などが絡み合い、
その問題の根本に、抽象的な「愛」と「プライド」が加味されて、
実に厄介な問題の大討論会になってしまう。

しかも、ラストは、実に「演劇的」な幕切れで、お見事。
と、いうわけで、観ても、当然、損はありません。
ただし、かなりの難物ですので、体力のある時にどうぞ。
あと、基本的な人物関係は知っていたほうが良いです。

さて、問題の「舞台セミナー」ですが、これがまた素晴らしい時間でした。

セミナーの講師は、この舞台の「美術監修」をなさった土屋茂昭さん。

作者ジロドゥがどんな思いを込めてこの作品を書いたのか、
から始まり、舞台の装置に関するお話、そして衣装の事。
「舞台での単位はメートルではなくて尺です」というのも面白い。

最後には舞台に上げて貰って、装置を見学させて貰いましたが、
あの印象的な「脚」の裏側が、最高に面白かった。

さて、その「脚」、そしてこれまた印象的な「平和の門」。
この大きな装置は、講師・土屋氏の師匠でもあり、
今回の公演でももちろんスタッフに名前がある、金森馨氏の作品。
それは、戦争の足音や「運命」を感じさせる脚であったり、
「戦争」と「平和」との境界のような門として設計された装置とのこと。

もちろん、その装置は、上演する劇場によって大きさも変る。
その時代背景をうけて、また演出意図を受けて、
そしてまた、演じる役者の身体特徴や演技によって、
装置の大きさはもとより、質感、色、時には高さなどまでも変えて作る。
だから、装置は、最初の設計どおりに作られるわけではないらしい。
けれど、
観る人に不安を感じさせて、戦争を予感させて、運命を感じさせる、
そういう「脚」であるということ。
また、
その存在が人々の運命を左右する力を持つと感じさせる「門」であること。
そういった「装置に込められた意図」は少しも損なってはならず、
その意図が明確に観客に伝わるように製作されなければならない。
土屋氏の仕事、そして「再演」というのは、そういうものだそうだ。

このセミナーで感じたのは、ありきたりで、再確認だけれど、
「舞台の上に無駄なものはひとつもない。あってはならない」
ということだった。
それをしっかりと伝えてくださった土屋氏に、感謝。

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コメント

おとみさん、コメントありがとう。

阿久津くんは、正に「ミュージカル・スター」ですよ(笑)
この演目でも、台詞が歌のように聞こえたりします。

いやいや、
あのカップルが「それらしく見える」のが、あの劇団の怖いところです(爆)

投稿: みかん星人 | 2008年10月 1日 (水) 午前 08時08分

>みかん星人さま
千秋楽一度きりでした。
阿久津さんのあまりのカッコよさに、主演の容姿とはこれほど説得力のあるものかと今更ながら感動。
カップルが親子に見えたのは脳内補正許容範囲でした。
ベイビージョンも可愛かったですね。
猫屋敷には行かなかった裏切りものです。

投稿: とみ(風知草) | 2008年9月30日 (火) 午後 10時13分

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