『正義のミカタ―I’m a loser』 by 本多孝好
400字詰めの原稿用紙で約775枚。(あの『百年の孤独』は約940枚)
その全編において、主人公は脱線することなく「物語」し続ける小説、、、
それが『正義のミカタ―I’m a loser』でした。
私は海外ミステリが好きで、「ハードボイルドだど」って感じの(笑)一人称小説をよく読みます。
それでも、この小説の主人公ほど物語に専念する「僕」に出会った事はない、
という気がしました。
一人称のこの小説は、「僕」が見聞きしたことだけに「まっしぐら」で、
目に映った、だけど物語とは無縁のもの、に関する余談めいた描写などほとんどないのです。
強いて上げれば、渋谷で待ち合わせた女の子に関する描写が出てきましたが、
この描写も、後になって物語、というか「僕」の意識に絡んでいて、余談ではないのです。
更にしかも、この本はミステリ仕立てだけれど、ミステリではなく、
丁寧に読み進めると、結末まで「あら!」と驚く事も無く、すんなりと終わってしまう。
もし、この小説が、
「正義とは何か」を読者に考えさせようと書かれたのなら、あまりにも安直です。
対象にしている読者層と私がずれている、という部分もありましょうが、
初老の私には、ここに書かれている「正義」は遥か昔の問題です。
私と10歳しか違わない著者にも、それは充分に解っているハズだしなぁ・・・と、
そう考えたままでこの物語を読んでしまうと、本当に「安直な小説」としか思えない。
しかし、この物語の強烈な面白さに、次第に解らされてくるのです。
「これは、物語を読む快感を得るために書かれている本なのだ」という事に。
そう、やはりこの小説は「純文学」なのですね。
つまりこの小説は「正義とは何か」を読者に問うという目的を持ったものではなく、
ただひたすら物語を堪能する「純文学」として存在していて、
そういう本としては「たいへんに面白い一冊である」と感じました。
この本は、たとえるなら、
「バッティングセンター」とか「ゴルフ練習場」で得られる快感に近いかもしれません(笑)
ゲームの一部として、勝利と云う目的のために、バットやクラブを握って打席に立つのではなく、
それが三遊間を抜こうと、ワンオンしていようと、バンカーに捕まっていようと関係なく、
ただひたすら、手に残るボールを打った感触と、その行方を見守る。。。。あの代え難い快感。
「読後感」や「メッセージ」なんて残らなくて良い。
ただ純粋に「物語」の面白さに導かれて、自分以外の意識が奏でた幻覚を楽しむ。
この『正義のミカタ―I’m a loser』は、そういう本でした。
そのうち、五月晴れの頃にでも、久しぶりにゴルフ練習場に行ってみようかな。。。
夢中でクラブを振って、ボールを飛ばすことを楽しむ、、、まっすぐ飛ばないんだけどね。
- 本多 孝好
- 双葉社
- 1575円
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書評/国内純文学
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