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2007年4月16日 (月)

『ほしいあいたいすきいれて』 by 南 綾子

『花宵道中』に続いて、
「女による女のためのR-18文学賞」の第4回大賞受賞作『夏がおわる』を収録した、
南綾子さんのデビュー小説『ほしいあいたいすきいれて』を読みました。
 (『夏がおわる』『ほしいあいたいすきいれて』の2編収録)

これも要するに官能小説(死語?)という事なのですが、
『花宵道中』とは違った意味で、「エロティックな小説」とは感じられませんでした。
短編の『夏がおわる』は大変に面白く、「R-18文学賞」の大賞受賞も頷けます。
ですが『ほしいあいたいすきいれて』は、主題が『夏がおわる』に似ていて(と言うか同じ)、
短編の後に読むと冗長に感じてしまうのです。
また、『夏がおわる』は間違いなく「エロティックな小説」ですが、
『ほしいあいたいすきいれて』は、帯にあるように「官能度が高い恋愛小説」に過ぎず、
この2編が同棲していることが、大きな違和感を残します。

そも「女性が読んでもナチュラルに感じられるエロティックな小説」って、
どんな小説なんだろう?
と、この『ほしいあいたいすきいれて』を読んだ初老の私は考えてしまいました。
男が、いわゆる「エロ小説」を読む場合は、
「その本を楽しむ」というよりも「その本を利用する」事が多いかもしれません。
女性も、同じように「エロティックな小説」を手段として読むのかもしれません。
ですが、
実際の恋愛同様、女性は小説の中に「共感」や「共鳴」を求ると思いますし、
「R-18文学賞」とあるように「文学」であって欲しいと思う、気がするのです。
「文学」つまり、人の内面を描きつつ、それを取り巻く環境との関係性の描写がある。
簡単に言うと「シチュエーション」を読みたいのでは?、と思うのです。
 (ハーレクイン・シリーズは、まさにこのシチュエーションの面白さでしょう(*^^))
濃密なエロティシズムに満ちたシチュエーションの中で描かれる小説
これが、女性が楽しめる「エロティックな小説」なのではなかろうか?
実際『花宵道中』や、「R-18文学賞」の第1回大賞受賞作の『マゼンタ100』は、
そういう意味でエロティックな小説として優れていたと感じます。

この『ほしいあいたいすきいれて』には、
「エロティックなシチュエーション」が足りないように思うのです。
好きになった男が、それまでの男達と同様、不誠実で、だらしない。
 そんな彼と離れられないヒロインは、やがて彼の為に風俗で働くハメになる

といったこの小説の「シチュエーション」は、なかなか上手く描かれています。
ですが、少しもエロティックではなく、心配したり、苦笑してばかりさせられます。
むしろ、児童虐待やDVという今日的な問題の方が目立っていて、
これを「エロティックな小説」と括る事に抵抗を感じる程。
『ほしいあいたいすきいれて』は、ヒロインの堕落と拘泥、覚醒と自律を描いた、
或る意味ですがすがしいとすら言える、恋愛を基軸にした普通の青春小説でした。
「R-18文学賞」という看板が無くても、いや無い方が良いのでは?と思います。

ところで、途中から出てくる少女とヒロインの関係は『テルマ&ルイーズ』調で面白い。
ぜひ、この二人を主人公にした冒険譚を期待したいですね。


ほしいあいたいすきいれて
  • 南綾子
  • 新潮社
  • 1260円
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書評

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コメント

Goriさん、コメントありがとう。

『ほしいあいたいすきいれて』は、普通の文学として標準的な出来栄えの良作だと思います。
ただ『夏がおわる』と並んで収録されて「エロティック小説」として括るには問題が深すぎる気がしました。

DVとか児童虐待を扱った物語を「女性のためのエロティック小説」としてしまうと、「R-18文学賞」の趣旨と違ってくる気がするのは、おぢさん的な視線なのでしょうかね(笑)
「遊女」をテーマにしたした『花宵道中』でも似たような背景がありましたから、もしかしたら「女性にとってのエロティック」はそうなのかもしれませんが。。。
ただ、それこそが「それを取り巻く環境との関係性」という部分に掛かってくる気がするわけです。「時代背景」も「環境」ですからね。

ま、、、面白ければ良い、とは思いますけれど(爆)

投稿: みかん星人 | 2007年4月18日 (水) 午後 12時11分

嬉しいコメント&TB、ありがとうございます!
ただただ物語ファンで、妄想と現実逃避を愉しんでいます♪
なるほど、「文学」の解釈、とても勉強になります!

>人の内面を描きつつ、それを取り巻く環境との関係性の描写

それこそが、私が深く欲しているモノ。大好きな物語の真髄!?

そういう意味では、この作品、確かに「文学」としての完成度に疑問をも感じつつ、それでも人間性に未熟さ不安定さを多分に含む私は、やっぱり物語として充分に愉しんだ(笑)!

投稿: Gori | 2007年4月17日 (火) 午後 08時38分

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