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2007年1月 3日 (水)

『累犯障害者 -獄の中の不条理-』 by 山本譲司

「読書」というのは、実に面白いと思う。
なかなか経験できないスリルやサスペンスを疑似体験できるし、
「大恋愛」だって経験した気分になれてしまう。
古代の人々の思考を(翻訳の問題を乗り越えて)自分のものにできるし、
偉人の人生を傍からみて笑ったり感心したり絶望したりも、できる。

この本、『累犯障害者』も、そういった「読書の意義」を経験できる本でした。
尤も、この場合「面白い読書」と言うにはかなり語弊がありますね。
読んでいる間じゅう、私は言いしれぬ「不安」を感じていました。
なにしろ、この本に書かれていることは、絵空事でも古代の事でもなく、
「いま、隣で起こっている、
 関心を持たなければならないけれど、どうしたら良いのかが分からない問題」
だったのです。

「とある障害」、例えば知的障害、精神障害、そして聴覚障害といったことで、
社会とのコミュニケーション(意思疎通)が困難な人々の事は知っていました。
そして、少し想像すれば、その人たちが、
「自分の意思や考えをとりまとめ、説明する」事が困難だろうとも分かります。
しかし、そのために【福祉】があるのだと思っていましたし、
ちゃんと機能しているものだと思っていました。
ところが、
「比較的軽度」という事や、「ある程度は社会に適応できる」という事で、
その【福祉】の網の目からこぼれている人たちがいる。
 (それも、「お金にならず、面倒だから」という【福祉産業】という観点で)
しかしながら、その人たちは「最も弱い立場の人」として社会に存在し、
そして故に、犯罪を起こしてしまうことがある。
 (特に、受刑者の30%弱が知的障害者とのこと)
更に、こうして「触法障害者」となってしまうことでさらに【福祉】から遠ざかり、
「塀の中の方が楽だ」という意識もあいまって、再犯率が高くなる。
 (この「塀の中へ戻りたい」という動機が、下関駅を燃やしていたとは・・・)

「知らなければならないこと」「考えるべきこと」が多く書かれた本で、
「よく書いてくれた」と感じる一方で、上にも書きましたが、
「では、私にできる事は何なのか?無い?どうしたら良い?」
という焦りというか、恥しさや不安が残ってしまうのは問題かと思います。
「解決策」は望まないまでも、「覚悟」や「視線」ぐらいは残してほしい。
問題ばかり指摘されて、具体的な解決策の無い昔の選挙公報みたい。
いまは「マニフェスト」として解決策が提示されるべき時代のはずです。

さらにこの本には、いろいろな部分に、大きな「違和」を感じるのです・・・・

著者は、早稲田大学を出ただけあって、文章は上手いのですが、
時々「難しい単語・表現」が出てくる辺りに、微妙な「いやらしさ」を感じるのです。

たとえば、、、「怪火」(基本的に新聞用語に思う)、
「寒心に堪えない」「蚤取り眼」(いま時の表現ではないと思う)、
「惹起」「昵懇」「杳として」「燥いで」「磊落」「勾引かす」(ルビなくして読めるだろうか?)、
そしてカタカナ言葉の「レゾンデートル」(「アイデンティティ」ではなぜいけない?(笑))
といった表現・単語がぞろぞろ出てくる。
もちろん、こういう表現を否定はしませんよ、、、私も好きですから(笑)
ですが、この本のテーマとの齟齬(ほら、私も好きだ(*^^))を感じるのです。
中には、私の無知を暴く「触法障害者」という言葉(用語)もあって、
これは啓発としてありがたいとは思いますけれどね。。。
なんとなく「偉そう」、もしくは「スノッブ」な文章で書かれている本です。

更に、少々、言い掛り的な事を言わせて貰うと、
この『累犯障害者』というタイトルは、あまりに過激ではないでしょうか?
著者自身も「あとがき」でこの事には触れていますが、
やはり「累犯」というのは「累犯:罪を重ねる」という言葉であって、
それを「次から次に犯罪に結びついてしまう障害者」と読み取らせるのは無理です。
いや、無理なんて言っている場合ではなく、むしろ「卑怯」ですし、
メッセージが正反対に伝わっている気がします。

もう一点、、、、副題も問題ではないでしょうか?
不条理」という言葉は、かなり高度な意識・認識を伴う単語のように感じます。
このインテリの匂いがする「不条理」が「獄の中」にあるとして、
では、その「不条理」を感じているのは、誰、なのでしょう?
もし、それを感じたのが著者であり、尚且つ福祉に遠くない立場に居るのでしたら、
この本に書かれていることを「ああ、不条理だ」と言っていて良いのでしょうか?
私には、大変に無責任な意識のように感じました。

ただ、、、ある意味で必読の一冊だと思います。
文庫になるのを待って、でしょうけれど(笑)


累犯障害者

  • 山本譲司
  • 新潮社
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書評

【書評リンク】
障碍を持った人の雇用 by keibi402さん
ゆっくりと世界が沈む水辺で by きしさん
B級鑑定士-アンチγGDP by QAZoo99さん
本だらけ by uririnさん
Programing Must Go On by Kenkitiさん
Ordinary by 宮本とがさん
ディ・モールトな日々 by momochichiさん
本読め 東雲 読書の日々 by タウムさん
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フレパ

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コメント

タウムさん、コメントありがとうございます。

今しがたも、テレビ朝日の報道娯楽番組で、
「累犯者」の事を取り上げていましたね。
で、やはり「累犯者」と「刑務所に入りがちな障害者」は違うわけですよ(笑)

ブログを拝読しました。
お互い、長文かきですね(*^^)

これからもよろしくお願いします。

投稿: みかん星人 | 2007年2月27日 (火) 午後 10時54分

TBさせていただきました。

たしかに、使われている言葉には引っかかることが結構ありましたね。ご指摘のとおり・・・。
福祉行政の怠慢と、障害者のおかれている過酷な状況にこころがおもくなりました。

投稿: タウム | 2007年2月25日 (日) 午後 10時56分

keibi402さん、コメントありがとうございます。

keibi402さんにとってこの本は、
「中途半端すぎる入門書」という感じなのでしょうか?

現実にそういう障害を持った人々に接していると、
【福祉】というのがいかに個別の問題であるのかというのを感じます。
大切なのは、相手の健康がどんな状況であれ、
「その人とのコミュニケーションを重視する」事に尽きると感じますね。
で、そういう部分で、この本が示している姿勢、
使う言葉、言い回し、レトリック、そして思い込みという部分で、
「?」を感じても仕方ないと思います。

私も、keibi402さん同様、性に関する部分の姿勢には、特に違和を感じました。


これからも、よろしくお願いします。

投稿: みかん星人 | 2007年1月14日 (日) 午後 04時52分

みかん星人さん トラバありがとうございます。

この本を真剣に読んでおられ感心しきりです。
こういう読み方をされるのであれば、この本の評価はもっと高くしてもよいかななどと思ってしまいました。

私の部下(軽度の知的障がいのある人)を見てうえで、この本を読んだせいか、感想文では言い方が批判中心になってしまいました。

投稿: keibi402 | 2007年1月13日 (土) 午後 06時43分

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