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2006年12月 5日 (火)

『元禄忠臣蔵・第三部』 @ 国立劇場

たまたま、9月5日に読んだ新聞記事のお陰で、
この3ヶ月連続公演を観ることができました。。。凄い満足感(笑)
で、完走記念として、3人の内蔵助のサインが入った手拭を頂きました。Tenugui_1

 

  

 

 

 

 

 

 

 

今回の内蔵助は、松本幸四郎さん。
第一部の中村吉右衛門さんが「志」を起て、
第二部の坂田藤十郎さんが、「忍」をもって耐え、
第三部の松本幸四郎さんが、「思」を遂げたというところでしょうか。

すべてが「念」に貫かれていて、
多くの人々の「心」の在り様・姿勢を描いていた舞台だったと感じました。

仇討の後、預けられた細川家で、その御曹司にねだられて、
「一生の宝となる言葉」を内蔵助が送る場面があるのですが、これが良かった。
曰く、
『人はただ初一念を忘れるなと、申し上げとうございます。
 とっさに浮かぶ初一念には、決して善悪の誤りはなきものと考えまする。
 損得の欲に迷うは、多く思い多く考え、初発の一念を忘るるためかと存じまする』

これを伝えるときの内蔵助の、いや幸四郎さんの表情、これが凄かった。
眦を決し、腹の底から、自分の思いと苦節を確かめるような様子。
これは「芝居」というものではなくて、本物の「念」を感じました。

そもそも、真山青果は、この場面がある『大石最後の一日』を最初に書き、
その後7年の歳月をかけて『元禄忠臣蔵』を書き上げたそうです。
ですから、最も「書きたかった事」がこの段にあるのでしょうし、
それがきっと上に書き出した「初一念」の大切さなのでしょう。

実は、これを書いているときに、この『大石最後の一日』に似た、
というよりも、たぶん影響を与えた小説を思い出しました。
それは真山青果の17年前に芥川龍之介が書いた『或日の大石内蔵助』です。
子どもの頃に読んでも分からなかった記憶があります。
で、もう一度読んでみましたが、この芝居を観てようやく分かりました。

ともかく、内蔵助は、
「こんな事になりたくなかった。昼行灯のままで終わりたかった」のでしょう。
なのに、その平穏な日常は奪われて、武士でもいられなくなり、
更に仇にはなんのお咎めも無かった。。。「許せない」。
ただこのこの「一念」が、「私の悔しさを思い知らせたい」という気持ちが、
内蔵助と浪士達を支えたのだ、という事。
この三部の舞台を観終わって私が感じたのは、そういう気持ちでした。
たぶん「主君の仇」というのは、半分以下なんでしょうね(笑)

幸四郎さんの内蔵助もまた、文句なく素敵でした。
不思議と、他の役者さんより一回り大きく見えるんですねぇ。。。ご立派。
三津五郎さんが幕府の大目付で登場なさっていたのですが、
この人がお芝居の中で話しかけるのが大石主税で、
この主税を、三津五郎さんの子息・巳之助さんが演じておられました。
主税を「立派な青年」などと誉めそやす場面が、
なんだか可笑しくもあり、ほほえましくもあり。。。
こういうのも、歌舞伎の楽しみ方のひとつなのでしょうね。

今年、歌舞伎を何度か観て、、、
(まあ来年も1500円で観られるのなら、通いそうですが・・・)
「言わずもがな」という日本的な意識の面白さを感じました。
『大石最後の一日』のクライマックスで、
内蔵助が「吉良家への裁定」を聞く場面があって、泣けちゃうのですが(笑)
ここでの「やり取り」が、なんとも麗しい。
内蔵助は「吉良家はどうなりましたか?」と幕府からの使者に訊ねたいのですが、
さすがにそれを口に出して聴いてしまうのは憚られる。
と、それを察して、使者が吉良家への裁きを伝える。
そこで初めて、内蔵助は「初一念が届いた」と安堵をする。
【西欧文化の影響】なのかどうかは知りませんが、
今では「知りたい事は聞き出せ」というコミュニケーションが多く、
「だって訊かなかったから答えなかったんだよ」
なんて事が、よく、あったりしますね。
でも、歌舞伎に描かれている日本のコミュニケーションは、
「恥を忍んで訊かずともよい。。。教えてあげるから」
という、相手の立場を尊重するようなコミュニケーションがあったのですね。
で、それはやはり、とても麗しいなぁ、、、と感じたのです。

さらに、これは『義経千本桜』を観たときにも感じたのですが、
「弱者の心意気」を取り上げて謳い上げる姿勢も面白く、素晴らしい。
まあ「水戸黄門」と言ってしまうとみもふたも無いのですが(笑)
大きなカタルシスを感じる場面が多く、
歌舞伎に「心の浄化」をしてもらえるのが実に意外でした。
市井の人が心に貯めている「大きな声で言いたい事」が、
歌舞伎と言う芝居で表現されているように感じますし、それが魅力なのでしょう。

こういう、庶民の心を取り上げた文化を持っている事を学んで、
そしてそれを誇りと感じる「愛国心」なら、本当に素晴らしい事なのだけれどね。

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コメント

先日、NHKで放送していた吉右衛門さんはその第1部だったのでしょうか。
途中までしか観られなかったのですが、主君の起こした事件の余波を一つ一つ確認し、最後に吉良上野介が生きていることを何度も何度も確かめる内蔵助を、何だか泣きそうになりながら観てしまいました。

投稿: きし | 2006年12月 8日 (金) 午前 12時48分

きしさん、コメントありがとう。

をを、、、そんな番組が放送されていましたか!

第一部は、
そのようにして「初一念」が間違っていない事を確認する内蔵助が、
本当に切なくて、泣かせていただきました。
歌舞伎にあんなに泣かされるとは思いもよりませんでしたね。

これから、またひとつアンテナを張るジャンルが増えて、困ったものです(爆)

投稿: みかん星人 | 2006年12月 8日 (金) 午後 08時02分

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先月に引き続いて、『国立劇場十一月歌舞伎公演』に行ってきました。 今月の大石内蔵 [続きを読む]

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