『わが悲しき娼婦たちの思い出』 by ガブリエル ガルシア=マルケス
「ガブリエル ガルシア=マルケス Gabriel José García Márquez」の新作、
『わが悲しき娼婦たちの思い出』を読みました。
この爺さん、みかん星人の親父と同じ歳で、
この如何わしいタイトルの小説を書いたのが2004年で77歳の時。
うーん、、、侮れない爺さんだ。
(本当の生年が1927年とも言われているし、、、実に侮りがたい)
物語はなかなかセクシー・・・
「90歳の誕生日に、うら若い処女を狂ったように愛したい」
と考えてしまった男の物語。。。思い付いた事も、侮れない。
その、侮れないという予感に半ば怯え、半ば挑みながら読み始めてみると、
これがなんとも素直な小説で、とても驚きました。
翻訳の妙もあるのでしょうが、凝った言い回も無く、
説明に終始する事も無く、目の前の事を淡々と記述する。
面白いのは「」で括られた文章がとても少ない事。
一人称で書かれた文章の中に、巧みに会話が織り込まれる。
それが、物語好きな老人の問わず語りのようで心地よいのです。
ノーベル賞まで取った、という情報からだけでなく、
その不思議に熱を帯びた気配のある人気から想像していたのですが、
マルケス氏の小説には「メタファー・暗喩」が多い気がしていました。
しかし、私が読んだ感じでは、ほとんどメタファーを感じない。
これが『わが悲しき娼婦たちの思い出』だけなのかどうは、
残念ながらまだこの一冊しかまじめに読んでないので、分かりません。
が、ともかく、この本は、とても素直な物語だと感じました。
例えば、いかにもメタファーの予感を纏って登場する「猫」。
いろいろな人に飼われたものの捨てられていた猫を贈られ、
その最後の飼い主となるかもしれないというエピソードは、
街中で出会った青年士官との会話(これも「」がほとんど無い)で、
逆に自分の方から猫に合わせていくんです。
そうしているうちに猫があなたを信頼するようになりますから。
と諭される場面を通じて、あっけらかんとメタファー(暗喩)では無くなってしまう。
誰が読んだって、猫を通じて何をメッセージしようとしているのか、解る。
「自転車」というアイテムにおいても、然り。。。
いや、「恋」の効能に関しては、もっと簡単に直接的に表現する。
まるでジュブナイル小説に出てきそうな明確さで「恋」の歓びを語ってしまう。
嵐のおかげで雨漏りが酷かった時の騒動を回顧するときの描写などは、
とても90歳の男が堕ちている恋の描写とは思えないほど微笑ましく、
最後には「九十歳になって経験した初恋がもたらしてくれた奇跡だ」と締める。
なるほど、本を通じて描かれるこの簡潔さ。。。
この簡潔な表現自体が、「恋」という事なのかもしれないなぁ。
が、こんなにもあっけらかんとしているにもかかわらず、
「恋に落ちて行く90歳のわが身」を見据える目と、
それを表現する言葉の(簡潔なのに)深遠なことには驚かされる。
あの頃は流れ行く雲の間をふわふわ漂い、
ひょっとしたら自分がどういう人間なのか分かるかもしれないという
虚しい期待を抱いて鏡の前に立ち、
自分自身を相手に話し合ったものだった。
どこにも難しい言葉を使っていないのに、ここまで書けるというのは、凄い。
(いや、私が「凄い」と褒めたところで、まったく無意味なのだけれど・・・)
単行本で118ページしかないこの本 (驚く無かれ、1800円+税もする!)は、
実に軽快に読み進められるし、再読したいと思わせる魅力を持っている。
きっと、再読の度に、新しい風を吹かせてくれる予感もある。
そして、これはどうしても言いたい事だけれど、
この本の手触りは、なんとも心地よい。
「ひたすら眠り続ける10代の乙女」に対する恋物語にふさわしいのです。
表紙のデザイン、そして帯も含めて、長く手元に置いておきたい1冊。
そして、いつの日か、これを誰かに読んであげたい・・・と妄想した私でした。
- ガブリエル・ガルシア=マルケス
- 新潮社
- 1890円
【書評リンク】
雑木林からの便り by ひげおじさん
青空の下で昼寝 by 碧さん
どちらでもいい by dada2さん
雑食レビュー別館 by おおきさん
まっしろな気持ち<別館> by ましろさん
ふどうさんやのおやじ by Goriさん
本と映画の色々 by pehuさん
本虫のふん by ぐらさん
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フレパ
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コメント
私も昨日数本TBを張ってきましたが、ニフは癖が悪くて(笑)一発で通らないことが多いみたいですね。。。まったくぅ。。。
投稿: みかん星人 | 2006年11月22日 (水) 午後 01時37分
今日は飛びましたー。ふぅー。
投稿: dada2 | 2006年11月22日 (水) 午前 12時19分
dada2さんへ。。。うーん、不思議 ヽ(~~~ )ノ
いちお、さっそく、私の方からTBさせていただきました。
また、こちらの文中にリンクを入れました。
「武器は、男に論理を与える最高の道具」
と三島は書きましたが、
もしかするとこの本の「愛」も同じかもしれません。
そもそも、男にとっての「再生」とは、なんなのでしょうね?
『眠れる美女』をネットで注文しようか迷っている私でした。
投稿: みかん星人 | 2006年11月20日 (月) 午後 11時18分
ううーん、TB送れたり、送れなかったりです。
Fは送れたんですけど、こっちは2回試しましたが、
ダメですかね。
投稿: dada2 | 2006年11月20日 (月) 午後 11時06分
dada2さん、コメントありがとうございます。
川端康成を読んだのは30年ほど前ですらねぇ。。。
そろそろ、読み直すべき、というか、
「今こそ」なのかもしれませんので、機会をうかがいます。
トラバは、特に拒否設定の中に紛れ込んではいませんし、
「要リンク」という設定もしておりませんので、
『最後の晩餐の作り方』の時と同様に可能だと思います。
よろしく、牽引してくださいまし(*^^)
というか、、、dada2さんの書評、ワクワクものです!
投稿: みかん星人 | 2006年11月14日 (火) 午後 11時17分
こんばんは。
ちょっとヤバイです。
川端康成と続けて読んだら、別世界に行ってしまって、
この世になかなか帰って来れません。
まだお読みでなかったら、川端康成『眠れる美女』も是非に…。
投稿: dada2 | 2006年11月14日 (火) 午後 10時39分
カトキチさん、コメントありがとうございます。
》そこにあるものをそのまま文体に表す
そんな感じて淡々とすすむ物語なのですよ。
まさに、爺さんの問わず語りの心地よさ。
教訓だの道徳だのを隠し持っているあの監督の映画より、ずっと楽しめました。
投稿: みかん星人 | 2006年11月11日 (土) 午後 03時58分
これ読みたいなぁ…メタファーが少ないっていうのは私何気に好きですね、もちろんあると文学的表現が広がるけども、そこにあるものをそのまま文体に表すという方が私好みなのかもしれません。
投稿: カトキチ | 2006年11月 9日 (木) 午前 10時08分