« 『オクラホマ!』 @ 日生劇場 by 宝塚歌劇 | トップページ | 『元禄忠臣蔵・第一部』 @ 国立劇場 »

2006年10月15日 (日)

『カポーティー』

映画『カポーティー』は、
アメリカの文筆家「トルーマン カポーティーTruman Capote」が、
カンザス州で起きた一家四人惨殺事件に触発されて、
小説『冷血』を書き上げるまでの経緯をたどった映画。

この映画が描いたのは、
みかん星人にもある「好奇心(の様なもの)」が余りに強く作用した事で、
カポーティーという小説家が壊れてゆく様子だった。

この映画の巧い点は「カポーティー」という男の内面を余り深く描かず、
(狙ったのか失敗かは解らないけれど)結果的に彼の特殊性に拘らずに、
【Curiosity kill the cat】を表現したことでしょう。
つまり
「興味本位で他人の人生に深く関わってはいけない」という事と、
その興味本位がもたらす悲劇の典型がこの映画の核なのです。

「人の命を奪う」のも冷血ではあるが、
「人に虚しい希望を与える」のも冷血なのかもしれない。
しかし、カポーティーは、彼等殺人者に対する好奇心を止められなかった。
「理解したい」という気持ちに素直に従ってしまった。
そこには愛情があったのかもしれないし、
カポーティーがずっと感じていた孤独も作用していただろう。
そして、最も厄介な「無意識の偽善」も。
で、それを「カポーティーという男が特殊だったからだ」という事に終わらせず、
映画の中で彼が見せる「名誉欲」「孤独からの逃避」「一方的な共鳴」といった、
誰にでもありうるスノビズムの延長に捕らえていて、結果的に秀逸。

きっと原作では、トルーマンの幼少に関する記述もあるのだろう。
映画でも、それを織り込みたかったフシはある。
けれど、それを描かなかった(描けなかった)事で、
図らずも?メッセージに普遍性が加味されたと感じる。

もっとも、それゆえに観客は逃げられない。
「あなたにも、こういう『冷血』が流れている」と、突きつけられる。
なかなか、厳しい映画だ。。。

【余談】
似たような映画が、先ごろアメリカで公開されました。
Infamous』予告編が素晴らしく、この映画を観た人にはよく解るもの。
さて、こちらでのカポーティーは「Toby Jones トビー ジョンズ」で、
ネルハーパーリーは「サンドラ ブロック」様。。。楽しみです。

|

« 『オクラホマ!』 @ 日生劇場 by 宝塚歌劇 | トップページ | 『元禄忠臣蔵・第一部』 @ 国立劇場 »

コメント

映画の原作。。。なるほど、そうかもしれません。

アメリカで公開されている『Infamous』が、
この辺りをどう描いているかを楽しみにしましょうか。。。

投稿: みかん星人 | 2006年11月 7日 (火) 午前 12時00分

映画の原作…これは気になります。…読みたい…。
でも精神衛生上はあまりヨロシクなさそうなので、元気なときに読むことにします。
リンク、ありがとうございました。

投稿: きし | 2006年11月 6日 (月) 午前 01時25分

きしさん、コメントありがとう。

『冷血』読みたいような、怖いような。。。
「ノン・フィクション小説」という分野を生み出した名著ですから、
「読むべき一冊」なのでしようが。。。
きしさんの書評が、すばらしいので、みなさんご一読を。
http://blog.goo.ne.jp/apheta1969/e/7d563c854a60b40d456b61a3d53d3f06


私が、ちらっと思ったのは、
この映画の原作となったクラークの『カポーティー』では、
どれほどカポーティーの幼少が取り上げられているのか?
という点でした。
「同じ家の表と裏」という言い方をしていましたが、
「表」だと思っているカポーティーを、
映画になった原作がどれほど掘り下げていたのか?
映画でのそれは中途半端で、それが良かったのですが・・・

読みたい本がたくさんあって、嬉しいですね(^-^;

投稿: みかん星人 | 2006年11月 5日 (日) 午後 04時00分

ああ、そうか、と思いながら拝読。
私は『冷血』を読んでから観たのですが、小説の中にはたった1箇所しかカポーティ本人は出てこないのです。
それも取材に来ていたジャーナリストとしか。
最終的な判決を待たずにあの小説が一部とはいえ発表されたということが驚きでした。

投稿: きし | 2006年11月 4日 (土) 午前 12時40分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『カポーティー』:

« 『オクラホマ!』 @ 日生劇場 by 宝塚歌劇 | トップページ | 『元禄忠臣蔵・第一部』 @ 国立劇場 »