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2006年9月13日 (水)

『最後の晩餐の作り方』 by ジョン ランチェスター

世の中にはさまざまな「料理本」があるものです。
私が日々愛用しているのは、
婦人之友社」から出ている『毎日のお惣菜シリーズ』で、
実に丁寧に作り方が書かれています。
こういった「実用的な料理本」が一般的ですが、
「読み物として面白い料理本」も、世の中にはたくさんあります。

『最後の晩餐の作り方』にも何度か出てくる、
ブリア=サヴァラン著の『美味礼賛』は世界的な名著でしょう。

みかん星人が料理好きとなった一因が、
小野正吉さんによって書かれた『西洋料理秘訣集』との出逢い。
昭和44年に出版された、
カバーの折り返しに書かれた推薦文は遠藤周作先生だったりするこの本の、
私は19版を持っているのですが、
例えばこんな素晴らしい事が書かれています。
「西洋料理では砂糖をほとんど使わないので、最後に甘味がほしくなるのです。
 しかし、甘ければよいというものではありません。
 デザートはデザインを食べるものなのです。
 美しいデザインで心ゆくまで満足感を引き出すのです」
ただし、食後のエスプレッソは「甘いほど良い」と思います。
結晶の大きな砂糖を飽和状態になるまで入れて飲むのが最高。

小野さんの本もそうですが、
「料理本」だからといって「料理の仕方」が書かれているとは限りません。
私が最も愛する「料理本」である『美食の歓び』は、
私が最も敬愛する高橋忠之氏の名著ですが、
その扉には、高橋シェフの自筆サインと落款とともに、
「美食学とは食べるという行為にかかわるすべてのことの理論的認識である」
とのブリア=サヴァランの言葉が掲げられています。
自筆のサインを頂いたのは、忘れもしない、
私が初めて女性と旅行をしたときに逗留したホテルが、
あの「志摩観光ホテル」だったからにほかなりません。
このホテル、今はどうかは知りませんが、
当時は世界で最も美味しい「鮑のステーキ」が食べられる場所でありました。
ともかく、この本に書かれている「レシピ」は、例えば、こうです。
【伊勢海老のムース】
「ファルス・ムースリーヌ・ド・ラングーストを型に入れて湯煎にかける。
 伊勢海老はクールブイヨンでブランシールし、クーを割り、
 殻から取り出しトリュフとともに添える。
 ソースナンテュアをムースに注ぐ。
 シブレットのアッシェを加えたソースブールブランをクーに注ぎ供する」
・・・これを読んで「美味そう!」と思えたなら、幸せです。

閑話休題

この『最後の晩餐の作り方』も、また見事な「料理本」になっています。
冒頭で紹介される「ブリニ」は、実に丁寧に作り方が書かれていて、
「煙が出るまでフライパンを熱する」なんて事まで書いてある。
これに添える「キャヴィア」に関する解説は一読の価値あり。
これを食する際に飲むべきなのが、
ウォッカなのかシャンパンなのかに触れていないのはご愛嬌。

一人称の主人公・タークィンは、こうして食に関する薀蓄を披露しながら、
時に芸術を語り、人の心の繊細なるを描写しながら、
 (この小説の最大の難点は幾つもあるが、口述記録様式であることだろう)
人生の重大な問題、もしくは唯一の関心事に収束してゆく。
「食べることは、別れを告げることだ」
タークィンの哲学は、かなり変わっているが、ここに尽きる。

命を取り込んで命を永らえる。
「命」は罪深い存在だ・・・という事を、
こんな側面から描写するのも、面白いのかもしれない。
「どれほど美しく、その命を終わらせてやるのか」
ある意味で【料理】とはそういう行為なのでしょう。

そう、年代物のワインを開けるときなどもそうですね。
最高のタイミングで、相応しい場所と、最高の料理でマリアージュする。
これが完璧にできたとき、
もしかしたら私もタークィンと同類項になっているのかもしれない。

ただし。。。
命を取り込むその行為が、見慣れたそれとは違うのが、本書の肝。
また、その取り込んだ命が、血や肉にならず、心の糧となるのが★3つ。


最後の晩餐の作り方

  • ジョンランチェスター
  • 新潮社
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